第2部 フレーズの効果的な覚え方

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フレーズの覚え方でお悩みの方へ

今回は、フレーズの効果的な覚え方について、やさしく丁寧にお伝えします。

私はジャズギターの講師をしていますが、アドリブに苦手意識を持ってしまう方によく出会います。

じつは私自身も、昔はうまくアドリブが取れずに悩んでいた時期がありました。

その原因は「負のスパイラル」と呼べるようなものにハマってしまっていたからです。

よくある負のスパイラルとは?

  • 何かフレーズを1つ覚える。
  • それだけでは足りない気がして、さらに別のフレーズを覚える。
  • 覚えるフレーズが増えるごとに混乱してきて、最初に覚えたフレーズも弾けなくなってしまう。

つまり「アドリブができないのは、フレーズが足りないから」と思い込んでしまうのです。

これは、かつての私自身でもあります。

もちろん、いろんなフレーズを覚えること自体は悪くありません。 ただ、それだけではどうしても限界がきます。

そんな方のために、今回は本当に効果があった練習方法を、できるだけ分かりやすくお伝えします。

私はもともと何をやるにも時間がかかるタイプですが、それでもこの方法は大きな効果がありました。

ジャズギターを難しく感じて諦めてしまう前に、ぜひこの方法を試してみてください!


結論:たった1つのフレーズを育てよう

最初に結論をお伝えします。

たくさんのフレーズを覚えるより、1つのフレーズをしっかり覚えて汎用性を高める方がずっと効果的です。

YouTubeでも人気だった『神フレーズ1』と同様、今回はたった1つのフレーズを軸にしながら、その使い方を広げていきます。

ステップに入る前に…今回のレッスンの全体像

前回の『神フレーズ1』では、どちらかというとテクニックや指の動きといった技術的な部分に焦点を当てていました。

それに対して今回のレッスンでは、**フレーズの「聴こえ方」や「響きの変化」**に注目しています。

練習は全部で 7つのステップ に分かれていて、それぞれに意味と目的があります。


ステップ1〜3 は、今回の練習の土台になります。何度もくり返して、確実に体に染み込ませていくことが大事です。

ステップ4〜6 は、少し発展的な内容です。ここでは、想像力や応用力を育てていくことを目指します。

  • ステップ4では、表現力や技術力を磨く練習になります。
  • ステップ5では、コードの背景を入れ替えて響きの変化を楽しみます。
  • ステップ6では、覚えたフレーズを2-5のフレーズとして応用していきます。

これらは、多少の音楽理論の知識も必要になりますが、弾いている中身は同じなので安心してください。

そして ステップ7 では、今まで練習したことを キーやポジションを変えて応用していきます。


こうやって少しずつ理解を深めていけば、きっと「仙人のように自由なアドリブ」が近づいてきますよ!

それでは、さっそくステップ1からスタートしてみましょう!

ステップ1:メジャーフレーズをしっかり覚える

今回はCメジャーキーのフレーズを1つ覚えます。

2小節の中に収まる、比較的シンプルなフレーズです。

ここで覚えたものが、今後の練習すべてのベースになります。

これをオリジナルフレーズとします。


オリジナルフレーズ

ここではキーをCにして、ジャズの楽曲のコード進行で最もよく出てくる2−5−1の流れを感じながら練習しましょう。Cメジャーのフレーズは2小節とします。

覚えるコツは、ゆっくり確実に何度も弾いて慣れていきます。

ポイントはスライドさせたりハンマリングさせたりして、色付けしない事です。

確実に覚えれば強力な武器になります。

【ステップ2】ステップ1で覚えたフレーズの出だしに休符を加えていきます


休符の長さによっては、同じフレーズを弾いているのに聴こえ方が変わります。なので難しく感じるかもしれません。
まずはじめに、3拍目から入るフレーズを覚えるのがおすすめ。違和感なく身につくと思います。

3拍目から入る

なぜこのやり方が有効的なのか考えてみます。

楽曲のコード進行は、ドミナント・モーションをしてトニックに戻ってくることが非常に多くあります(ここでは G7 から C です)。そして、ジャズのフレーズは「3度に解決する」ことがよくあります。

しかし、今回のフレーズは「5度」から始まっています。

もしこのフレーズを、そのまま覚えて使おうとすると――5度から始まるため、解決先で3度が来たときには、そこが1拍目になってしまい、うまく弾けませんよね?

すると、「このフレーズはここでは使えないな……」ということになってしまい、さらに別の新しいフレーズを覚えようとします。

これが、冒頭でお話しした「負のスパイラル」の始まりなんです。

でも、2拍待って「3拍目から入るフレーズ」をあらかじめこのように練習しておけば、Dm7–G7 のツー・ファイブ進行でも、3度に解決する形で簡単に弾くことができるようになります。(※動画もあわせてご覧ください)

「負のスパイラル」を別の言い方でたとえるなら、せっかく手に入れた良い武器があるのに、その使い方がわからない。そして「あまり使えないから」と言って、次々と新しい武器を装備していくうちに、体が重くなって戦いづらくなってしまう――そんな感じです。

足りないものをどんどん増やそうとするのではなく、今持っている切り札をしっかり磨いていくことが大切なんです。
覚えたフレーズやメロディを、大事に育てていくような感覚ですね。

ここまでの、「頭(オリジナルフレーズ)」と「3拍目から」はわりと簡単なのですが、2拍目や4拍目から弾くのは少し難しく感じると思います。

同じことをやっているはずなのに、メロディがポリリズムのように聴こえて、印象が変わるんです。これも繰り返し練習して、体にしっかり馴染ませていきましょう。

2拍目から

4拍目から

何でもいいので、自分の知っているツー・ファイブ・フレーズと組み合わせて、実践を想定して弾いてみましょう。

【ステップ3】


裏から入るフレーズで対応していきます。ジャズらしく、3連符も加えていきましょう。
ジャズでは、裏から入るフレーズや3連符が頻繁に使われます。
これもステップ2と同じように、体に馴染むまでゆっくりと繰り返し練習してみてください。
やはり、1拍目や3拍目の裏から入る方が簡単で、2拍目や4拍目の裏は少し難しく感じると思います。

1拍の裏から

2拍の裏から

3拍の裏から

4拍の裏から

ここまでくると、今やっている練習方法が「転ばぬ先の杖」になっていることが実感できると思います。
ジャズは、何かを弾こうとしても必ずしも思い通りにいかない音楽です。
だからこそ、どのタイミングからでも立て直せるようになることが、とても大切です。

早く覚えるための工夫

フレーズというのは、単語のようなものです。
ソロの一部を切り取ったものとも言えます。
ソロには物語のような流れがあり、前のメロディーに反応して生まれたものと考えることができます。
ということは、今弾いているフレーズの前に、どのようなニュアンスのフレーズがあるべきかを想像することができるのです。

これはセンスが問われる部分でもありますが、私なりにメジャーフレーズの前に合いそうなメロディーを考えて、下に弾いてみました。

オリジナルのメジャーフレーズをフェイクした2−5フレーズ

メジャーフレーズと同じように、休符を加えて弾いてみましょう。
休符をメジャーフレーズに合わせることで、より覚えやすくなると思います。

【ステップ4】

このステップでは、音を足したり引いたりして、フレーズに色付けをしていきます。
そのほかにも、スライドやハンマリング・オン、プリング・オフなどのテクニックを使って装飾してみましょう。
うまくいかなくても、不恰好でもかまいません。自分なりにどんどん弾いてみてください。
チャレンジすることが大切です。きっと、あなたらしい個性的な演奏になっていきますよ。


【スッテップ5】

このステップでは、今回覚えたメジャーフレーズが色々なコードの上で弾いてもサウンドすることを学んでいきます。

①KeyがCメジャーなので、平行調であるAマイナーKeyで次のようなコード進行を作ってみました。
Am7             | Am7           |Bm7♭5        |              E7|

Cmaj7とAm7は音楽理論で言うところのトニックの仲間なので、Am7の上で今回のメジャーフレーズは弾くことができます。

②ジャズの最もよく出てくるコード進行で1−6−2ー5もしくは3−6−2−5だと以下のようになります。
Cmaj7      |Am7        |Dm7        |G7        |

Em7           |Am7        |Dm7        |G7        |

③マイナー7thをドミナント7thで代理してみます。
E7#9           |A7        |Dm7        |G7        |

④代理したドミナント7thを更に裏コードを使って代理します。
B♭13          |E♭7#11     |Dm7        |G7        |(*譜面のコードが間違っています。B7add13になっていますがB♭13の間違いです)

このように、音楽理論を知っていると、よりクリエイティブに使える場所が増えていきます。

【ステップ6】

メジャーフレーズを2-5フレーズに応用
全てに当てはまる訳ではありませんが、例えばこんなことも可能です。 

サブドミナントであるDm7とFmaj7はトニックであるAm7とCmaj7の関係によく似ているということに注目してみます。
トニックであるCmaj7から見たAm7の関係は、短三度下がったマイナーコードです。
そしてサブドミナントのFmaj7から見たDm7も、同じく短三度下がったマイナーコードとなります。
Cmaj7のオリジナルフレーズがAm7で弾くことが可能ならばFmaj7のポジションで弾けばDm7として弾くことが可能だということが考えられます。
技術的には同じことをしているのに、サウンドがかなり違うので、感覚を掴むのに少し時間がかかるかもしれません。でも、わかってくると面白いですよ。
このように音楽理論からヒントを得ることで、独自のつながりを作ることも可能になります。


これをドミナントセブンスのフレーズと組み合わせると以下のようになります。メジャーフレーズも場合によっては2-5フレーズの一部に変更できるんですね。

【ステップ7】

最後は、ポジションやキーを変えてステップ1〜5を繰り返します

まとめ

【ステップ1】
確実にフレーズを覚えるべし

【ステップ2】
フレーズの頭に休符を入れる。
※この時、同じフレーズを弾いているはずなのに、2拍目から始まるのと4拍目からはじまるのは少し難しく感じる

【ステップ3】
1から4拍までの裏から入る
3連符を使う

【ステップ4】
音を足したり引いたり、スライドやハンマリングを使って自分だけのオリジナルを試す

【ステップ5】
コード理論を使ってバックグラウンドを変化させる

【ステップ6】
メジャーフレーズを2-5フレーズに応用

【ステップ7】
ポジションやキーを変えて15をやる

なるべく合理的に考えられるようにしているつもりです。
このレッスンはメジャーフレーズの使い方に焦点をあてていますが、ツーファイブやマイナーなどフレーズなど、様々なものに応用が可能です。

今回は理論的にも少し難しいことが含まれていますが、間違えて欲しくないことがあります。それは、理論さえわかれば音楽ができてしまうと思ってる人が案外多いのです。私たちは、先人たちの素晴らしいものを少しずつ吸収して発展させていくことによって自分だけの新しいものが作れるはずです。

というわけで、本日はここまでとなります。

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ジャズギターは簡単に身に付くものでは無いですが、粘り強く諦めなければ弾けるようになりますので頑張りましょう!

ではまた次回!